「なんかあったのか。」
俺がそう聞くと、結衣は少し間があって、
「今日はそうじゃないよ。」
と呟いた。
声色は暗かったけど、顔は笑っていた。
「何もないってことか?」
そういうわけではないことくらいわかっていたが、なんとか結衣の話を結衣の口から聞きたかった。
「んー、なんもないわけじゃないけど、特別なんもないよ。」
結衣はなんとでもないという顔をした。
「それよりさ、テレビつけてもいい?」
食事のマナー上、テレビを見ながらご飯を食べるということはあまりいいことではない。
特に結衣は育ちがいいので、そういうルールには厳しい。
そんな結衣が、自分からそんなことを言うなんてとても珍しかった。
「別にいいけど。」
「やった。」
そう言って彼女は胸を踊らせながら、うきうきでテレビをつける。
そんなに見たいものがあったのだろうか。
結衣がつけたのは、ドラマでもドキュメンタリーでもなく、ただのニュースだった。
天気予報を見ながら、結衣は感嘆をもらす。
今日の彼女はいつもより変だ。