陽菜の母親は幼い時に事故で亡くなったこと。
父はそれからしばらく放心状態で家に引きこもっていたこと。
自分が6年生の時に、やっと働き出したと思ったら会社の同僚とお付き合いを始めたこと。
そして1年前結婚し、新しい母親が家にいること。
だけど自分はその人を認められなくて、家に帰ったら自室に引きこもること。
「意地悪されるわけじゃないの。嫌われているわけじゃないの。でもね、あの人とお父さんが並んでいると、もうお母さんの居場所がない気がして辛いの。私のお母さんはあの人じゃないって。あの人はよそ者だって。私の耳元で誰かがそうつぶやくの。」

俺はその時、「辛かったな。」と頭を撫でて、泣き震える彼女の背中をさすることくらいしかできなかった。
その話を聞いてどこか心の片隅に「重いな。」なんて最低なことが浮かんでいたくらいだ。

今なら、きっと俺はすぐに抱きしめてあげられる。
大丈夫、俺がいるよ、って、苦しいときに寄り添うこともできると思う。
もちろん、当時中学2年生だった俺に、それが出来なかったわけじゃないと思う。

だけど俺はしなかった。