付き合ったらなんて、勝手な想像だ。
妄想だ。
願望だ。
その私の自分勝手な望みを、祐斗に押し付けてしまったのだ。

もし付き合ったら、で相手を勝手に想像するなんて失礼だ、無礼だ。

そんなこんなで時はバレンタイン。
私たちはテスト期間が被ってしまったため、バレンタインをホワイトデーにあげていた。
それに、祐斗が含まれていたのだ。
『材料を思ったより多く買っちゃってあまりそうだから祐斗の分も作ってもいい?』
だなんて、よくいいわけじみたことを言ったもんだ。
そこで祐斗がいいよと言ったのも意外だったが。

春休み、祐斗と約束してチョコを渡した。
きちんと話したのはそれが初めてだったと思う。
あの時の走り方、表情、手、それは覚えているのに、一つだけ思い出せないものがある。

「人は声から忘れるんだもんね。」

祐斗の声が、思い出せない。
きっと低くていい声だった思う。
優しい声だったと思う。
だけど、考えれば考えるほど頭がぐるぐる渦をまいて何も考えられなくなる。
忘れたくない。
覚えていたい。

そう思っても、忘れてしまう。