教室の扉をそーっと開け、左右の廊下を確認する。


 うん、誰もいないみたい。


 うしろを振り向いて南条くんに合図をすると、二人で教室をそっと抜け出し、階段を目指して廊下を進んでいく。

 なんとか三階にある一年一組の教室の前までたどり着き、できるだけ音を立てないようにそーっと教室の扉を開けると、中からむわんとした空気が流れだしてきた。

 教室の中は、太陽の光がさんさんと差し込み、五月とは思えない暑さになっている。

 そういえば、『今日は真夏日になるでしょう』って朝の天気予報で言ってたっけ。


「よし、これで男子の分は全部か。女子のは、隣の自習室だよな? 俺、今からちゃちゃっと着替えるから、詩乃は先に隣に行って、体育館に持って帰る着替え、集めといて」

「でも……」


 この状況で、南条くんを一人にするわけにはいかないよ。


「大丈夫だよ。なんかあったら、大声で詩乃のこと呼ぶし」

「……」


 本当に一人にしていいの?

 だけど、細かいことを考えている余裕はない。

 一分一秒でも早く講堂に戻らなくちゃ。

 南条くんのことも心配だけど、他のみんなのことだって心配だよ。


「わかった。すぐ戻るから、着替えておいて」

「おっけー」

 わたしは教室を飛び出すと、隣の自習室へと駆け込んだ。


 早く……早く……。


 自分の制服をぱっと着て、残りの制服をかき集め、南条くんのいる教室へと戻ると——もぬけの殻だった。