「だったら、俺と詩乃で全員分の制服を回収してくるよ」

「えぇっ、ダメだよ! 校舎は危ないかもだし」

「いつまでこの格好でいろっていうんだよ」

「う……それはそうだけど」

「二人いればなんとかなるだろ。な?」


 みんなに聞こえるようにそう言ったあと、わたしにだけ聞こえる声で『詩乃、これは命令だ』とささやく南条くん。


 それを持ちだされると、簡単には断れないんだけど……。


『これは護衛としての意見ですが、外は非常に危険です。我慢してください』 

『でも、なにかあったとき、これじゃあ身動き取りづらいんだよ』


 それもわかるけど……。


『それに、他のヤツらが勝手に教室に戻りはじめたら、もっとマズいことになるだろ』


 た、たしかに。


『……わかった。じゃあ、わたしから絶対に離れないでね』

『了解』


「ってことで、俺と詩乃で、ちょっと行って取ってくるわ」

「それはうれしいけど、本当に大丈夫?」

 心配そうに南条くんの顔を見上げる愛莉さんに向かって、南条くんがニコリと笑みを浮かべる。

「わたくしには、王子がついておりますから」


 こんなときに姫の演技ができるなんて、余裕ですね⁉


「王子、なんかあったら姫のことは守ってやれよー」

「誰もいないからって、いちゃつくなよなー」


 こんなふうに冷やかす余裕があるなんて。この状況を不安に思ってるのって、ひょっとして、わたしだけなんじゃないの?

 ……って、そんなわけないよね。みんな、必死に平静を装っているだけに違いない。


「姫のことは、わたくしが責任を持ってお守りいたします」

「頼みましたよ、王子」

 うなずき合うと、わたしたちはそっと講堂を抜け出した。