「……やっと自分の気持ちを言ってくれた」

 南条くんが、ぼそりとつぶやく。

「詩乃、俺の心配ばっかするから。俺のせいで詩乃が危険な目に遭うくらいなら、学校行かない方がいいのかなって思ってた。けど」

 南条くんが、すがりつくように、わたしを見上げる。

「俺が学校に行ったら、詩乃はうれしいの?」

 否定されたり、拒絶されたりしたらどうしようっていう不安を抱えている目をしている。

 だからわたしは、南条くんを不安にさせないように、しっかりと見つめ返す。

「うれしいに決まってるよ! わたしだけじゃない。みんな、南条くんが来るのを待ってるから」

「みんなはどーだっていい。俺は、詩乃さえ待っていてくれたら、それでいい」


 だ、だから、そんな勘違いしちゃいそうな言い方、しないでよね。

『護衛さえいれば、学校に行ける』ってだけのことでしょ?


 南条くんが、わたしの右手の指先を握ってそっと引く。

「ねえ、ラブのこと、なでてあげて。詩乃のこと、気に入ってるみたいだから」

「えぇっ⁉」

 相変わらず荒い息でわたしのことを見上げている大型犬——ラブを見下ろす。

「大丈夫だよ。噛んだりしないように、きちんとしつけはしてあるから」

「う、うん……」

「ひょっとして、犬、ニガテ?」

「ニガテってことはないけど。こんなに大きな犬は触ったことないから、ちょっと……」

「もう一匹家ん中にもいるけど。ドーベルマンのデュークってヤツ」


 ドーベルマン⁉ めっちゃ怖そうなヤツだよね⁉

 さすが、南条家の番犬だ。