「わ、わたしもムリです!」

 思わずイスをガタッといわせて勢いよく立ち上がる。

「だったら俺もやらなーい」

「えぇっ、そんな……」


 南条くん、そういうワガママはダメだと思うよ?

 でも、愛莉さんがやりたくない理由は、わかったよ。

 そうだよね。フリだとしても、南条くんとのキスシーンを北澤くんに見られるなんて、絶対にイヤなはずだ。


「だったら、僕が詩乃と一緒にやる」

 うしろの方で声がして、みんなが一斉に振り返る。

「け、圭斗⁉ だから、わたしはやらないって言って……」

「じゃあ、どっちとやるか、詩乃が選べよ」


 なに言ってるの、南条くんまで!

 そんなの……ニセモノとはいえ、今わたしは南条くんの彼女なんだから……。


「南条くんと……やらせていただきます」


 これしか選択肢がないじゃない。


「はい。それじゃあ、主演は南条くんと望月さんで決まりね」

「よろしくおねがいします!」

 やけくそ気味に大きな声でそう言うと、わたしはみんなに向かってがばっと頭を下げた。

 パラパラと拍手の音がする。


「ねえ、わたし、意外と望月さん、アリな気がしてきた」

「なんかさ、望月さんって、立ち姿がキレイだよね」

「剣を持たせたら、映えそう」

「姫を守るナイトって感じする!」


 普段、刀を持って戦うことはないけど、一応修行の一環として、剣道のいろはくらいは叩き込まれてきた。

 だから、これはちょっとうれしいかも。うふふっ。