本当にどこも痛くない。

 さっき、絶対にひどいケガをしたはずなのに。

 サイアク頭がかち割れていてもおかしくないような状況だった。

 なのに、無傷ってどういうこと?

 なんだかんだで、事故のことははぐらかされちゃったし。


 頭の中で同じことをぐるぐる考えながら、前を行く南条くんについて廊下を歩いていくと、女子の興奮した声があちこちの教室から聞こえてきた。


「本当に来てるよ、クール王子! 久しぶりに見たけど、やっぱ超カッコいい~」

「中学は普通に学校に来るってウワサ、本当だったんだね」


 へぇ。南条くん、『クール王子』なんて呼ばれているんだ。


「ねえねえ、知ってる⁉ さっき校門のとこで、クール王子が知らない女子とキスしてたって話」

「あ、わたしもそれ聞いた!」

「ちょっと、なにそれ⁉ 詳しく教えて」


 え……なにこの人。わたしがあんなことになってるときに、そんなフシダラなことをしてたってこと⁉



『蒼真が無事で、本当によかった』

『バカだな。俺がおまえを残して、こんなところで死ぬわけないだろ?』

 ブチューッ!



 みたいな⁇

 信じられない。

 しかも、さっきの事故よりも大きなウワサになってるし!