「それじゃあ、うちのクラスの出し物は、『男女逆転眠り姫』に決定ね」
司会をしている学級委員長が、黒板に書かれたタイトルのところに花丸を描く。
今、いったいなにをしているのかというと、学活の時間を使って、春のステージ発表会の出し物を決めているところなの。
「次に、配役決めに移りたいんだけど——」
「え、これ話し合うまでもなくない?」
「だよねー」
「異存なし」
「はーい、委員長。王子役は星山愛莉さんで、お姫様役は南条蒼真くんがいいと思いまーす」
「さんせーい」
「やっぱそうだよねー」
「王子の姫姿、見てみたーい」
「わかる。絶対キレイだよね」
「はいはい! わたし、姫のメイク係やりたい!」
「え、ズルい。わたしだってしたいのにー」
みんな勝手なことを言って、盛りあがっている。
南条くんは、ぱたりと机の上に突っ伏してしまった。
これはあれだ。完全拒否の体勢だ。
そのとき、わたしの前に座っている愛莉さんが、すっと手を挙げた。
「ごめんなさい。あたし、この役はできません」
愛莉さんの凛とした声が教室内に響き、みんなが一斉にザワつく。
「今までずっと主役は愛莉って決まってたのに、なんで?」
「愛莉の王子役、絶対カッコいいってー」
「でも……ごめんなさい。この役だけは、できません」
そう言うと、愛莉さんはうつむいてしまった。