『とにかく、おまえはまだ新人だ。まだまだ一人でできることには限りがある。そのことをちゃんと念頭に置いて、任務にあたること。わかったね?』

「はい。わかりました」


 報告を終えると、ごろんと自室のベッドに横になる。


 お兄ちゃんは、なんだかんだ言って、結局わたしのことを、全然一人前として認めてくれてないんだよね。

 圭斗をわたしのサポート役にまでしてさ。


「ねえ、モルモルも、そう思うよね?」

 ぎゅっと抱きしめていたモルモットのぬいぐるみに話しかける。


 いつの間に買ったのか、南条くんが帰り際にプレゼントしてくれたの。

「こいつ、詩乃にソックリだろ」なんて言って。


 失礼な!


 でも、丸っこくて、フワフワしてて、抱き心地最高。

 今日は、いい夢が見られそうだよ。


***


 坂を猛スピードで下ってくる車が一台。

 校門前で停車中の車から、南条くんが降りる姿が見える。


 ——早く逃げて!


 大声で叫ぼうとしても、なぜか声にならない。


 南条くんを助けにいかなくちゃ。


 焦る気持ちとは裏腹に、指先すら動かせない。


 どうして?


 背中を冷たい汗が伝っていく。

 暴走車に気づいた南条くんの顔が、恐怖に歪む。


 ダメ、おねがい、早く逃げて……!


 ガシャーン!


 耳をつんざくような爆音が、あたりに響く。


 いやーっ!!!!