それでもね、たまに「学校のみんなと遊びたいな」って思うことも、もちろんあったよ?

 修行がイヤでイヤでたまらなくて、逃げ出したこともあった。

 けど、結局逃げ出した先の公園で、木登りの練習ばかりしてた。

 何度も何度も途中で落ちて、それでも何度も何度も挑戦していたら、「どうしてそんなにがんばるの?」って、知らない男の子に不思議そうな顔で聞かれたっけ。

 メガネをかけた、わたしよりも小柄な男の子。


「どうしてって、そんなの、できるようになりたいからに決まってるよ」

「ふうん。そうなんだ」

 そう言いながらも、全然納得できてなさそうな顔をしてた。

「あのね、わたし、大きくなったら……あっ! これ言っちゃいけないんだった。と、とにかくね、わたし、大きくなったら、なりたいものがあるの。だから、がんばって修行してるんだ」

「ふうん。そうなんだ」

「ねえ、君は大きくなったら、なにになりたいの?」

「僕? 僕は……たぶん、なににもなれないから、考えたことない」

 それまでずっと淡々としゃべっていた男の子の声が、なんだかとても寂しそうに聞こえた。