ガチャンと観覧車の扉の開く音がして、わたしは反射的に握っていた手を離した。

「ありがとうございましたー」

 係員さんの笑顔に見送られ、わたしたちは観覧車を降りた。


 先に降りた北澤くんと愛莉さんが、観覧車の乗り場から少し離れたところで手をつないで立っている。

 だけど、どこかぎこちなく、お互い視線を合わさないようにさまよわせているみたい。


「お、おー、早かったな」
「もうちょっとゆっくりしてくればよかったのに」

 わたしたちに気づいた二人が、口々によくわからないことを言う。


 ……あの二人、絶対なにかあったよね?


 しばらくの間二人をじっと見つめていた南条くんが、苦しげな表情で天を仰ぐ。


「……」


 ひょっとして、初恋の人のことを考えているの?


 ねえ、今は考えないで。わたしを見て。

 わたし、もっとちゃんと彼女役、がんばるから。


 喉元まで出かかった言葉を、なんとか飲み込む。


 そうじゃない。わたしじゃ……ダメなんだよね。

 しょせん、ニセモノの彼女のわたしが南条くんにしてあげられることなんて、なんにもないんだ。

 わたしにできるのは、護衛として、南条くんを守ることだけ。


 その後、北澤くんは愛莉さんの迎えの車で一緒に帰っていき、南条くんもいつものいかついボディガードの運転する車で帰っていった。