がばっと起きあがって、パタパタと自分の体を確認する。


 かすり傷ひとつない。

 ひょっとして、さっきのは夢?


 ううん。今のセリフからして、あれは紛れもない現実のことで。

 なのに、かすり傷ひとつない……?


「あの、さっき車が突っ込んできて——」
「自己紹介。まだ聞いてないんだけど? はじめて会ったらまず名乗るもんじゃないの? 一応あんたの雇い主なんだけど、俺」

 わたしの質問にかぶせるようにして言う。

「しっ……失礼しましたっ」

 慌ててびしっとベッドの上で正座する。

「本日より、南条蒼真様の護え……お世話係を務めさせていただきます、望月詩乃と申します。なにかございましたら、なんなりとお申し付けください」

 簡単に自己紹介すると、深々と頭をさげる。


 一応、彼の護衛としてここにいるっていうことは、他の人にはヒミツなの。

 普段はそれぞれ普通の学生や社会人として暮らし、任務が入ったときだけ隠密に行動する、ヒミツの家業だからね。


「そんじゃ、教室行くぞ。普通に立てるよな?」

「はい。問題ありません」

 頭を上げ、立ち上がろうとするわたしに向かって、ため息をつく。

「あのさあ、その敬語はやめてくれる? 雇い主だけど、今日からクラスメイトなんだからさ。当然だけど『様』もナシな」

「はい、承知いたし……うん、わかった。えっと……南条……くん?」

「まあ、とりあえず、それでいいわ」

 傍らに置いてあった自分の荷物を肩に引っ掛けると、さっさと先に歩きだす南条くん。

 慌ててベッドをおりると、わたしもカバンを手に南条くんの背中を追った。