「なんだよ。人の顔見てニヤニヤしやがって」

「別に、ニヤニヤしてるつもりは……」

「ほら、俺らもさっさと行くぞ」

 不機嫌そうにふいっと顔をそらすと、スタスタと歩き出す。

「じ、邪魔はダメだからね!」

「何度も言わなくても、わかってるよ。あ、そうだ。ボートが転覆したら、よろしくな。俺、こうみえて泳げねーから」

「えぇっ、ちょっと待って。わたしだって、そんなに得意なわけじゃないからね⁉」


 一応二十五メートルくらいなら泳げるけど、南条くんを抱えて泳ぐのは、さすがにムリだよ!


 慌てるわたしの方を振り返って、南条くんがククッと笑う。


「手漕ぎボートならまだしも、スワンボートはそんな簡単に転覆しねーだろ」

「そ、そうだよね。あービックリしたぁ」


 もうっ、そうやって脅かさないでよね。


 結局、わたしたちのボートが出発してすぐ、北澤くん&愛莉さんチームと、南条くん&わたしチームのボートで競争がはじまってしまった。


 せっかくの二人きりの時間を邪魔しちゃって、愛莉さんに恨まれちゃうよぉ!

 ……って、心配していたんだけど、ボートを降りるときの表情は、愛莉さんも北澤くんも、それに南条くんも、みんな心からの笑顔だったから、これはこれでよかったのかな?

 幼なじみ三人の楽しい思い出になってくれればいいなって、心から思う。


 その気持ちは、本当。