目で訴えてみたものの、手に持ったアメリカンドッグを、さらにぐいっと近づけてくる南条くん。


「ほら、早くしないと冷めるだろ」


 めちゃくちゃニヤニヤしてるし。絶対わたしの反応を楽しんでる。


 これは任務。依頼人を守るために、必要なこと。


 何度か自分にそう言い聞かせると、「い、いただきます」と言って、口を大きく開けて近づいていく。

 口にする直前、揚げた油の香りとともに、ケチャップの香りかな? ふっと酸味のある香りが鼻についた。

 そのまま口いっぱいに頬張ると——ほらね、甘めの衣と、ジューシーなソーセージが絶妙なハーモニ…………ダメだ、これ、食べちゃダメなヤツ……。


 南条くんに警告しようとしたんだけど、意識が遠のき、イスから崩れ落ちる。


「詩乃⁉」

 南条くんの焦った声が響き、売店に並んだお客さんたちが何事かとザワつく。

「おいっ、しっかりしろ!」

 南条くんが、わたしの上半身を抱き起す。

 その瞬間、「きゃーっ!」という小さな悲鳴があたりにこだました。


 そりゃあそうだよね。

 みんなが食べてるアメリカンドッグに、まさか毒が入ってるなんて……。


 ……うん? なんだろ、この感触?


 ゆっくりと閉じていた目を開けると、目と鼻の先にぼんやりと人の顔が見えて……。


「詩乃、大丈夫か?」

 謎の感触が消えると、わたしの顔を心配そうにのぞき込む南条くんの顔がはっきりと見えた。

 その直後——。


 バチーン!


 わたしは反射的に南条くんの頬をビンタした。