「い、いいよ。わたし、行ってくるから。っていうか、すぐ目の前だし」

 ぎこちなく笑いながら、南条くんからすっと視線をそらす。

「こういうときは、彼氏にカッコつけさせるんだよ」

 わたしを無理やりイスに座らせると、売店へと歩いていく南条くん。


 そんな南条くんの背中を、じっと見つめる。

 本当の彼氏なんかじゃないはずなのに、なんだか本当に付き合ってるんじゃないかって錯覚しそうになる。


 ダメダメ。なにを考えてるの? 今は任務中なんだから。

 しっかりしろ、わたし。


 自分に喝を入れるため、ぱんぱんっとほっぺたを叩く。


「うわぁ、おいしそう」

 しばらくすると、南条くんがプラスチックのお皿に乗せられた二本のアメリカンドッグを持って帰ってきた。

 食欲をそそる香りに、ごくりと喉が鳴る。

「ほら、あーん」

 わたしの真正面に座った南条くんが、片方のアメリカンドッグを手に甘い声で言う。

「なっ……!」


 ち、ちょっと。そうやってまたからかわないでよね。


 わたしがぶんぶんと首を横に振ると、南条くんが小さくため息をつく。


「なにやってんだよ。毒味もおまえの仕事だろ?」


 ……そっち!

 だったら、ちゃんとそう言ってくれればいいのに。


 たしかに毒味は任務の範囲内だし、修行の一環として多少の毒になら慣らされているのも事実。

 だけど、これは列に並んで買ってきたばかりの、できたてホヤホヤのアメリカンドッグ。

 他の人だって普通においしそうに食べてるし、さすがに毒を仕込むタイミングはなかったと思うんだけど。

 そんなに警戒しなくても大丈夫なんじゃない?