依頼人は、ボディガード兼運転手の運転する車で学校まで来て、そこで護衛をバトンタッチすることになっている。

 時間的には、そろそろ来てもおかしくないんだけど……。


 と思っていたら、黒塗りのいかにも高級そうな車が、校門前に乗り着けられた。


 あっ、あれかな⁉


 一気に緊張が高まり、心拍数があがる。


 絶対に失敗は許されない。

 完璧に初任務をこなして、お兄ちゃんに一人前だって認めてもらうんだから。


「詩乃は、一度修行から逃げ出しているからね。そうやって一度でも逃げた者には、『危機に瀕したとき、依頼を放棄して逃げ出す可能性がある』というレッテルが一生ついて回るんだよ。厳しいことを言うようだけど、ここはそういう世界なんだ。だからこそ、無理強いはしないよ。家がどうとか、そんなことは気にしなくていい」

 この任務を受けることになったとき、最初にお兄ちゃんに言われた言葉が頭の中をよぎる。


 これを聞いたとき、ひょっとしてお兄ちゃんは、わたしにこの仕事をさせたくないのかなって思ったんだ。

 けどわたしは、

「ううん。絶対にやる。絶対に逃げ出したりもしない」

 って、きっぱりと言い返した。


 だって、お父さんとお兄ちゃんは、わたしにとってのスーパーヒーローだから。

 わたしの憧れで、わたしの目標だから。

 お兄ちゃんがわたしをやめさせたいのなら、わたしはちゃんと一人前だって認めてもらえるように、がんばればいい。

 依頼人のことは、必ずわたしが守り切ってみせる。なにがあっても。