「そうだ。連絡先の交換、まだしてなかったよな」

「へ⁉」

「なんだよ。スマホくらい持ってんだろ?」


 一応、仕事で必要になることもあるからって、お兄ちゃんに持たされてはいるけど。

 当たり前だけど、友だちの連絡先なんかひとつも入っていない。

 って、そういえば南条くんも仕事相手だっけ。


「じゃあ、もしもはぐれたときのためにね。念のため。いや、絶対に目を離したりしないけどね⁉ ちゃんと仕事する気満々だし」

「わかってるよ」

 言い訳をこれでもかと並び立てるわたしに、南条くんが苦笑いを浮かべる。

「なんでもいいから、ほら、早く出せって」

「う、うん」

 わたわたと背負った小ぶりのリュックからスマホを取り出して……連絡先の交換って、どうやるの?

 お兄ちゃんも圭斗も、勝手に自分の連絡先をわたしのスマホに入れてくれたから、やり方知らないんだけど。


「ほら、そこ押すとコードが出るから……うん、おっけー」

 言われたとおりに操作すると、南条くんはさっと自分のスマホを近づけコードを読み込んだ。


 しばらくすると、わたしのスマホがメッセージの着信を告げる。

 大きなイヌのスタンプで、【よろしく】っていう文字が入っている。


 ふふっ、かわいい。

 南条くん、イヌ好きなのかな?


 わたしも、【よろしくおねがいします】っていう、マルチーズがぺこっと頭を下げているスタンプを返した。

 すると、そっこーで返事が返ってくる。


 【かわいい】


 か、かわいい⁉

 ……いやいや、スタンプのことだよね?


 チラッと南条くんの方を見ると、くくっとイジワルな笑みを浮かべている。


 もうっ、絶対からかって楽しんでるよね⁉


 文句を言おうと口を開きかけたとき、「おまたせー!」という明るい声があたりに響いた。