「護衛の契約のときに聞いたんだ。詩乃が俺に恋をすれば、護衛の仕事をやめられるって。だから——」
「は? なに言ってるの。詩乃は次期頭首なんだから、君に恋愛感情なんか抱くわけないでしょ」

 突然圭斗が割り込んでくる。

「そうだよ! わたしが南条くんに恋愛感情を抱くわけ……って、次期頭首ってどういうこと?」


 ちょっと待って。だって、お兄ちゃんが頭首でしょ?


「あのさあ。なんで颯さんが『頭首代行』って名乗ってるんだろうって疑問に思ったことないの?」

「それはそうだけど……でも、なんでわたし? なんでお兄ちゃんじゃないの⁇」

「前頭首——詩乃のお父さんの遺言だよ。さすがに理由までは僕もよく知らないけど。だからこそ、代々頭首の側近を務めている佐治家の人間である僕が、君の護衛につくことになったんだよ」


 なにそれ。はじめて聞く話ばかりなんだけど。

 突然の膨大な情報量に、頭が全然ついていかない。


 あ、でも……。

 そういえばお兄ちゃん、わたしにこの仕事の依頼が来たとき、わたしがやりたくなければ、やらなくてもいい、みたいなことを言っていたっけ。

 ひょっとしたら、あまり積極的にこの仕事を続けたくないと思っているのかも。

 そういうお兄ちゃんの思いに気づいていたから、お父さんはわたしを後継者に指名した……?


 もうお父さんに本心を確認することはできないけれど。