「でも、詩乃にもしものことがあったら、俺は絶対に幸せにはなれない。がんばり屋で、負けず嫌いで……詩乃が、真っ暗だった俺の未来に、光をくれた。苦しくなるたびに、きっとあの子もがんばってるから、俺もがんばろうって思えた。いつか再会したときに、詩乃に恥ずかしくない自分でいようって思えたんだ」

 南条くんが、すがるような目でわたしを見つめてくる。

「南条……くん?」

 なにを言ってるの?

「もう詩乃には、危ないことをしてほしくない。護衛なんかじゃなくていいから、俺のそばにいて。こんな傷も、作らないでよ」


 あ……。今まで気づかなかったけど、さっき和田さんの手を捻りあげたときに爪でも当たったのか、腕に引っかき傷ができて、血がにじんでいる。そういえば、ちょっとだけヒリヒリするかも。


「今すぐ俺が治してあげる」


 治してあげるって、あ、アレをするってことですよね⁉


「いい! 大丈夫! このくらい、なめとけば治るから!」

 慌てて首をぶんぶん横に振る。

「ダメ。もし跡が残ったらどうするの」

「こんな浅いキズ、全然平気。すぐ治るから」


 おねがいだから、アレは勘弁して。

 アレ、想像以上に恥ずかしいんだから!


 ぎゅっと手を引こうとしても、頑として手を離してくれない。


「大丈夫。すぐ終わるから」


 ああ、もうっ。こういうところ、ほんと強引なんだから。


 ぎゅっと目を閉じ身構えていると、ぽわんと傷のあたりが温かくなる。


 ……?