あっ、この人。たしか南条くんの幼なじみの一人で、老舗和菓子屋の跡取り息子の北澤(きたざわ)大和(やまと)くんだ。

 スポーツマンっぽい見た目どおり、初等部から野球部に所属していて、中学でも活躍が期待されている将来有望な選手なんだとか。


「まさか大和がウワサを信じるタイプだとは思わなかったよ」

 南条くんが、小さくため息をつく。

「いや、一応聞いてみただけだって。だいたいモテキャラなクセに、愛莉以外の女子には塩すぎる蒼真に先越されるとか、地球が終わってもありえねーだろ」

「そーいうこと」


 さらっと否定してるけど、火のないところに煙は立たぬって言うじゃない⁉

 だからきっと、ウワサどおりじゃないにしろ、それに近いなんらかの出来事があったに違いないんだ。

 たとえば、気を失ったわたしに人工呼吸でもしてた、とか。

 つまり、人命救助……?

 うん。その線はありうる。


「まあでも、俺ら付き合うことになったから。そのうちそんなことがあっても、おかしくないかもな」


 …………。


「えぇっ⁉」
「はあ⁉」
「ウソ、ウソ、ウソ!」

 しばしの沈黙のあと、わたしと北澤くんと、それからもうひとつ別の興奮した声が重なった。

 わたしの前の席の、星山(ほしやま)愛莉(あいり)さんだ。

 わたしたちの方を振り向いて、頬を赤らめ両手で口元を覆っている。