出会いは偶然。あれは一年前のこと。
　恭子が帰宅途中、駅のホームへ降り立ったときだった。重量オーバーでパンパンにふくれあがったビジネスバッグのベルトがはずれ、バッグが地面に叩きつけられた。バッグの外側ポケットから小物がこぼれ落ちる。一緒になって一生懸命になって拾ってくれたのが健士だった。健士はバッグがあまりにも重いので驚いていた。ベルトが完全に破損したのを応急措置するときも手伝ってくれた。
　恭子は自分の名刺を渡し、健士は高校二年と自己紹介した。特に自分の高校名は言わなかったが、健士の賢(かしこ)そうな様子を見て、恭子はきっと進学校だろうと思った。
　次の土曜日。ファミマに健士を招待し、一緒にランチした。そのとき、恭子が自分の仕事について説明すると、健士は目を輝かせ、まぶしそうに恭子を見上げた。

「杉野さんってカッコいいです。理想を持って生きているなんて、僕、心から尊敬します」

と繰り返した。
　最後にふたりで連絡先を交換した。恭子は年上の落ち着いた態度で健士と別れ、自宅に急いで帰り、部屋の中でガッツポーズした。

「カッコいいです」「尊敬します」

の言葉を心の中で繰り返し、三回転してスキップした。会社では決して見せないパフォーマンスだった。