翌日の夕方。小会議室で開かれた営業企画部第一グループの『源氏物語の世界展』プロジェクト会議は、会議冒頭から大荒れだった。
 企画書の作成のため、源氏物語のダイジェスト本とムック本を手渡されたメンバーは、全員不満そうな表情を恭子に向けた。

「何でこんな本、読むんですか? 用意された企画資料で充分じゃないんですか?」
「山崎くんの言う通りだと思います。第二グループは全員、『一千年前の恋 源氏物語の世界展』の商品化について詳細な企画を立てているんです」
「グッズやアニメ、コミカライズで利益があがれば、『源氏物語の世界展』は大成功じゃないんですか? 何でわざわざ時間とって源氏物語の本なんか読むんですか?」
「ワケ分かんない」
「もう第二に負けたよ」

 恭子は努めて冷静な口調で説明した。

「よく考えてください。私たちが魅力を伝えられないのに、どうして商品化が成功するでしょうか? まず源氏物語を理解する努力をしてください」

 恭子の言葉に山崎がハッキリと拒否反応を示した。

「オレ、イヤです」

 渡された本を会議用のデスクに叩きつける。大きく舌打ちして立ち上がる。

「プロジェクト降ります。選ばれない企画書つくってもしょうがないですから」

 ドアが開いた。健士があわてたように全員分のお茶を持ってきた。山崎は席に戻り、うまそうにお茶を飲んだ。

「あなたたちを処分したくはありません。まず私の渡した資料に目を通してください」

 山崎、須藤、三神は無言のまま、健士が用意していたお茶のおかわりをうまそうに飲んでいた。

「私が一度、骨子を作成してみます。これを『叩かれ台』として、意見交換しましょう」

 三人からは何の反応もなかった。
 午後七時半が過ぎたとき、恭子はまだコンピュータに向かっていた。健士が声をかける。

「でもすごいですね。一晩で全訳読破されるなんて。僕、心から尊敬します」
「日下くんの資料のお陰です。私、もう少し仕事していきます。企画書の骨子をなるべく早く作成したいから」
「じゃあ、食事を用意してお待ちしています」
「待って」

 突然、恭子が呼びかけた。