「ま、待ってください」

 健士が緊張した表情で口を開く。

「杉野さんは僕の教育係ですよね」
「ええー」
「それなら僕が杉野さんの家にいても何も問題ないと思います」

 健士は早口で一気にまくしたてた。いや、問題ありすぎ。いくら教育係とはいえ未婚の女性が、十八歳とはいえ高校生の少年をひとりだけ、自分の家に入れる。しかも夜間。そのうえ、
 
「問題ないと思います」

と叫んだ少年が、罪悪感に満ちた暗い表情で下を向いていること。真面目な健士は、筋の通らない主張をしたことに耐えられないのだろう。恭子の応援団として、一番苦しんでいるのは健士なのだ。
 恭子は健士の様子に決意を固めた。

「確かに問題ないと思います。夕食と朝食のことお願いします。でも帰りが遅くなるのが心配です。朝だって早いし……」
「僕、大丈夫です。」

 健士は必死で大声を出した。その後、すぐに激しく咳き込んだ。だが恭子は、

(この少年、大丈夫かしら)

なんて少しも思わなかった。

「それじゃあ、お願いします」

 恭子は健士に何かしてあげなければと思った。キッスは一度した。ハグもした。あとは健士に何をしてやれるだろうか?

「す、すみません」

 健士がもう一度大声。

「図々しくて申し訳ありません。どうしてもお願いしたいことがあるんです」
「何かしら? 出来ることなら何でもします」
「あの、その、あの、その……」
「ほら、約束したでしょう。出来ることなら」

 恭子はだんだん心がときめいてくる。おとなしくて真面目で優しい健士だけれど、男であることは間違いない。キスしてハグして、その次の段階なのだろうか? 恭子はときめく。そして悩んでいる。

(だけどこの子、アレ持ってるのだろうか? いや、そんな心配しなくていいじゃない。ただお父さんがすっごく若くて、お母さんがお父さんよりずっと年齢(とし)とってたら、子どもっていつかは気にするのだろうか? 何て説明したらよいのかな? お母さんとお父さんは、結婚するために生まれてきたのだって)

 恭子の身体が熱くほてってくる。もしもこのまま健士と一体化したら、恭子の身体は一瞬で燃え尽きてしまうかもしれない。
 そして恭子の熱い想いは、健士の小さな声をうっかり聞き逃していた。

「ど、どうでしょうか? ダメでしょうか?」
「えっ、ごめんなさい。もう一度話してくれる」

 健士は涙目で訴える。