「すごい……」

 恭子には感嘆の言葉しかない。健士は、恭子のために夕食、朝食をつくると宣言。わざわざ夕食のメニューを用意してきたのである。

「月曜 ハマチとサーモンのお刺身、ヒレカツ、マイタケの味噌汁、ミニトマトとキャベツの千切り
 火曜 鮭のムニエル、里芋の煮物、ペペロンチーノ、豚の生姜焼、トマトとキャベツの千切り
 水曜 長芋の短冊切りと梅肉を刻んだ和え物、オムライス、鮭のムニエル、ミニトマトとキャベツの千切り
 木曜 麻婆豆腐、サバの味噌煮、ギョーザとレバーを牛乳に浸して焼いたもの、トマトとキャベツの千切り
 金曜 塩サバ、コロッケ、ナポリタン、新タマネギと豚肉の炒め物、切り干し大根と油揚げの味噌汁、トマトとキャベツの千切り
 土曜 ギンダラの煮付け、鶏モモ肉の皮パリパリ焼、里芋とコンニャクの煮付け、トマトとキャベツの千切り
 日曜 かき揚げソバ、キューリとカニカマの酢の物、ナスと豚バラ肉の炒め物」

 健士は恥ずかしそうに説明した。

「魚のおかずは美容食なんです。健康と美しさ、若さを保つのにとっても役立ちます。杉野さんは魚が好きですか?」
「ごめんなさい」
「やっぱり、そうですよね」

 健士が恭子が昼食を顧客と一緒に摂ることが多いとか、魚が苦手なことをきちんと知っていた。どこから調べたのだろう。

「だから魚以外に肉料理も組み合わせてみました。色々なおかずと一緒なら、魚も美味しく頂けると思います。こちらが朝食のメニューです。洋食と和食のふたつのバージョンがあります」

 恭子は、健士の話をあわてて遮った。遮らないワケにはいかないじゃありませんか?

「日下くん、君の気持ちはとっても嬉しい。でもね、大学受験を控えた子にそんなこと、させられません」
「で、でも僕、もう大学への推薦が内定しています」
「それにしたって、食事をつくることになれば、私の家に上がらなければならないでしょう。それはやっぱりいけないことだと思います」
「で、でも僕、もう十八歳です。結婚できる年齢です」
「だけど、まだ高校生でしょう」
「あの、その、僕、自分の家で作って杉野さんの家に運びます。それならいいですよね」

 恭子は健士の申し出を何とか辞退しようとしている。だが健士も諦めない。そして恭子自身、自分の本心がよく分かっている。

(日下くんに、ずっとそばにいて欲しい。でもすぐにそれを受け入れるのはNG。彼に大人としての良識を覚えてもらわなきゃならない。でもどうやって日下くんの申し出を受け入れたらいいのだろう)

 言葉とは裏腹。恭子は必死で、健士を自分の家に上げる口実を探している。

(日下くんに家に入って欲しい。企画書を成功させる力を与えて欲しい。でも彼は十八歳といっても高校生。私も独身。やっぱりダメだ。

「夜の遅い時間ですが、上がってください。3LDKの家に、独身の男女ふたりで一緒に過ごしましょう」

なんて絶対言ってはいけない。私は「あなたの広告会社」営業企画部第一グループ主任だ)

 悩む恭子は健士と一緒の夜を過ごすことが出来るだろうか?