「逃げるつもりだったの?」
澪の母親の声が鋭く、静かな部屋に響く。
澪は、
「この人は食べないで」
と、オレの前に立った。
「……そんなことは聞いていない。逃げるつもりだったのかどうか、聞いているのよ」
「お母さん……っ、お願い、許して」
イライラしているのか、澪の母親は「あ゛ぁ゛ーーーっ!!!」と大声を出す。
「うるっさいんだよぉぉお!! 口を開けば反抗ばっかりして!! 澪、あんただって私と同じなんだよおぉぉお!!」
澪の母親は包丁を持ったまま、右手をぶんぶん動かす。
その包丁は、確かうちの家にもある物と似ていて。
(出刃包丁っていうやつじゃなかったっけ?)
あれで。
駒澤くんは……。
もしかして、これからオレも……。
澪の母親の全身がシワシワになっていく。
出刃包丁を持っている右手を見ると。
骨ばった、細い指がシワシワになって並んでいる。
顔の造形も変わり、醜く意地悪そうなおばあさんの顔になる。