「あんた、帰って来るのが遅いじゃない」
と、澪の母親は責める口調で言う。



澪の肩がビクッと震えた。



「なぁに、この男の子」



母親はオレをチラッと見てから、澪を(にら)む。



「な、何でもない」

「何言ってんだか。あんた、さっきその子にペラペラ余計なことを話していたじゃない。聞いていたよ」

「……!」



母親は立ち上がり、オレをまっすぐ見た。

スラッとしていて、オレくらいの身長がある。



「ねぇ〜、澪。お母さん、お腹空いたぁ」



甘えたような声でそう言って、大きなお腹をさする。



「に、逃げて」



澪が小声で言う。



「え?」



澪が突き飛ばすような勢いで、オレの背中を押す。



「逃げて!!」



足が絡まりそうになったけれど、どうにか転ばずに済んだ。



「逃がさないよ!!」
と、澪の母親が叫ぶ。

オレは思わず、振り返ってしまった。

澪の母親は澪の肩を掴む。