思わず、足が後ずさった。
(やっぱり、駒澤くんの失踪に関わっているんだ)
澪はオレの足を見て、
「怖い?」
と、聞いた。
「怖いっていうか、……まだ、頭が追いつかないっていうか」
そう答えるオレの声が震える。
「あはっ、だよね? 怖いよね?」
澪は悲しそうに微笑む。
「私にはね、お母さんがいるの。お母さんも山姥で、今、妊娠しているんだ」
「……」
「私の時もそうだったらしいけど、赤ちゃんの父親は人間なの。でも、もうどこの誰なのかはわからない。探しようもない。お母さんだって、相手がどんな人なのか知らないんだから」
「……」
澪は空を仰いで、ため息混じりにこう言う。
「……お母さん、お腹が空いてるんだぁ」
「っ!!」
澪は形のキレイな目を細めて、今度はオレの目を覗きこむように見る。
「この姿になるとね、みんな、ついて来てくれるの。山の奥でも、どこでも。だから、私、山から村におりてきたんだ」