「えー、俺や陸はまだしも名前を知らない人の方が多いので・・・自己紹介をおねがいできるかな?」



私から離れた黒瀬さんは手を握ったまま私の方を向いて話しかけてくる。



手はそのままなんですね・・・いい加減離して欲しいんだけど・・・。



「──2年の加藤 伊吹です。よろしくお願いします」



軽くお辞儀をしながら自己紹介をする。



他に何か言った方が良かったのかな、なんて考えてしまうけどこのくらいに収めておいた方がいいだろう。



「お願いしゃーす!!」



私の自己紹介を聞いた部員は頭を下げて運動部独特の挨拶をした。



私が黒瀬さんと手を繋いでいることは気にとめてないようだ。



「んじゃ、マネの仕事よろしくな。・・・あぁ、スカートのまんまじゃ仕事しにくいだろうし、ジャージの予備あるからそれに着替えてきな」



手を繋いだまま着替えてくるように言う黒瀬さん。



繋いだままでどうやって着替えろと・・・?



「あの・・・着替えてくるんで、手、離してもらえませんか?」



「んー?あぁ、繋いだままじゃ着替えられないよな」



言葉ではそう言うけど、離そうとはしない黒瀬さん。



まさかこのまま着替えろなんて言うつもりじゃないよね・・・?



「・・・ねぇ、伊吹ちゃん。手ぇ、離したくないって言ったら・・・どーします?」



「!?」



甘えるような仕草で私のことをのぞき込みながら低めの声で呟く黒瀬さん。



予想外の言葉と行動にドキッと胸が高鳴り、目を丸くしながら息を飲んだ。



「・・・・・・なーんてね、ジョーダンだよ」



そう言って微笑みながら私の手を離す黒瀬さん。



だけど、少し名残惜しそうに見えたのは私の気のせいかな。



「・・・はい、コレ。俺が前に着てたやつだからサイズは小さめだけど、伊吹ちゃんにとってはちょっとデカいかもしれないから着る時気をつけて」



黒瀬さんは肩にかけていたエナメルバックの中からジャージを取りだして私に差し出す。



おずおずとしながら受け取ると、ふわりと柔軟剤の香りが漂ってくる。



「ありがとうございます。・・・着替えてきますね」



「うん、行ってらっしゃい」



受け取ったジャージを手にしながら、体育館の隅にある更衣室と書かれた部屋に向かった。