「・・・ハァ〜・・・」



放課後、日誌を書きながらため息をつく。



本当ならこんなことしてる間に灰田くんの所に行ってるはずなのにな。



あの時ちゃんと断ってればな〜・・・なんて考えながら日誌を書き終える。



「ん〜・・・」



凝り固まった体をほぐすように、両手を伸ばしながら背伸びをする。



あー・・・灰田くんに会いたい・・・。



不意にその衝動に駆られ、学生証に挟んだ写真を眺めて落ち着けようとする。



だけど、どこを探しても学生証がない。



「アレ・・・おかしいな・・・確かここにいれてたはずなんだけど・・・」



バックの中を慌てて探すけど、見当たらない。



入れたところが間違ってたのかな。



「──あ、いたいた」



そんなことを考えながらバックの中を探していると、廊下の方から声が聞こえてくる。



廊下の方を見ると、朝にぶつかってしまった高身長男子が扉に寄りかかるようにして中をのぞいていていた。



「ちょっといーですか?」



チョイチョイ、と手招きしながら私のことを呼ぶ高身長男子。



日誌と荷物を持って高身長男子の元へ向かっていく。



「なんですか?」



「学生証、廊下に落ちてたんで届けに来たんだけど──コレ、なに?」



高身長男子の手には、学生証が握られていた。



しかもその学生証は私のもので、灰田くんの写真を挟んでいたページが開かれていた。



「っ──・・・!?」



サァっと血の気が引いていくのがわかった。



普通、学生証に写真を入れてるなんて好きな人か彼氏の写真ぐらいだろう。



そんな状態を見られるなんて、私が灰田くんの事を好きなことを公表してるようなもんじゃん。



思わず彼から学生証を奪い取ろうとするけど、腕を上げられて届かなくなってしまう。



「最近体育館に来てるなーとは思ってたけど、陸が目当てだったとはね〜」



「ちょっ・・・返して・・・!!」



背伸びをして奪い取ろうとするけど、私の動きに合わせてヒョイと腕を動かされ、奪い取れない。



「陸、この事知らねーよな。知り合いが自分の写真を大事そうに学生証に挟んでるなんて。・・・バラしちゃおっかな〜」



「っ──・・・!や、やめて・・・!お願い・・・!」



高身長男子にすがりつくようにしながら懇願する。



灰田くんにバレたりしたら、生きていける気がしない。



少なくても、今はこの気持ちを伝えるなんて選択肢は私の中にはないし、なんなら隠し通そうと思っていたぐらいだ。



それなのに、灰田くんにバラされたりなんかしたら──



「そいつにバラされたくないなら俺の言うこと聞いてね、加藤 伊吹ちゃん♪」



ニヤリと笑みを浮かべながら私の名前を呼ぶ高身長男子。



それって、つまりは言うことを聞かないとバラすってことでしょ?



そんなの脅迫じゃん。



「・・・なにを、すればいいの・・・」



無理難題を言われたらどうしようという不安を隠すように、手を握りしめながらニヤニヤと笑みを浮かべている彼を睨むように見つめる。



「簡単だよ、俺の所属してる部活のマネージャーになってくれればいい」



彼の口から発せられたのは、マネージャーになることだった。



良かった・・・マネージャーになるぐらいならなんとかなりそう。



しかも、マネージャーになるなら毎日灰田くんの顔を見れるし一石二鳥なんじゃない?



「別に構いませんけど・・・」



「そうと決まれば、早速体育館に来てもらおっか」



「えっ、今日から!?」



トントン拍子で進んでいく話についていけず、驚きを隠せない。



マネージャーになるのは構わないけど、今日からってなると話は別だ。



心の準備とか必要なのに〜・・・!



「皆にも今日マネージャー連れてくって言ってあるからね」



皆にも・・・?



え、なに・・・もしかして私に話しかける前から私がマネージャーになること前提だった?



もしも私が断ったらどうするつもりだったんだろう。



「ほーら、行きますよ。い ぶ き ちゃん」



私と手を握り、歩き出す高身長男子。



そんな彼に手を引かれながら私も歩き出した。