体育館を出て、先に歩いている黒瀬さんに小走りで駆け寄る。



「もう・・・待ってくださいよ。一緒に帰ろって言ったの黒瀬さんじゃないですか」



「ごめんごめん、ちょっと考え事してた」



やっとの思いで黒瀬さんに追いついた私は、肩で息をする。



この程度で息が上がるなんて・・・やっぱり運動不足かな。



「それにしても、夜になると冷えますね。ちょっと肌寒い・・・」



黒瀬さんの隣を歩きながら、ブルっと震える体をさする。



暖かくなってきたとは言え、日が落ちれば寒い。



こんなことなら上着もってくればよかった。



そう考えていると、黒瀬さんがエナメルバッグの中からジャージを取り出して私の目の前に差し出す。



「体、冷やしちゃダメですよ、伊吹ちゃん」



これは、着ろってこと・・・かな?



このままだと寒いし・・・借りようかな。



「ありがとうございます、借りますね」



「そーしてください。ほら、荷物持つよ」



「すみません」



差し出された手に荷物を渡し、黒瀬さんの上着を着た。



着た時にフワッと柔軟剤の香りと、黒瀬さんの匂いが漂ってくる。



この前も借りて着たけど、やっぱり大きいな。



裾から手が出ないや。



「ありがとうございます」



「いーえ、こちらこそ」



荷物を持ってもらったことに対してお礼を言って荷物を受け取ると、何故かこちらこそと言われてしまう。



この前も言ってたけど・・・こちらこそってなに?



「・・・この前もきになったんですけど、こちらこそってなんですか?」



バックを肩にかけながら、黒瀬さんの方を見る。



前もジャージ借りた時も言ってたし・・・どういう意味だろう。



「んー・・・男のロマンを叶えてくれてるからね、今も前の時も」



「男のロマン?服を貸すのが?」



「萌え袖が拝めるからね」



そう言われて、自分の手を見る。



確かにこれは俗に言う萌え袖というやつだろう。



これの何が可愛いのか・・・ただ、服のサイズが合ってないないだけのようにも思えるけど。



「うーん・・・分からない・・・」



うーんと唸りながら自分の腕を見つめていると、黒瀬さんがふふっと笑う。



黒瀬さんの方を見ると、優しげな表情をしてこちらを見ていた。



「これは男にしか分からないと思うな〜」



「そういうものですか?」



「そういうものです」



うんうん、と噛み締めるように頷く黒瀬さんのことを見て、ハテナが浮かんでくる。



その後も、他愛もない話をしながら自宅前までたどり着く。



「家着いたね」



「はい。あ、ジャージ洗って返しますね」



「いいよいいよ。そのまま返して。ほらほら」



そう言って、黒瀬さんは私の着ていたジャージを奪い取ってしまう。



「あ・・・ありがとうございます」



「いえいえ。じゃ、また明日ね」



「はい、また明日」



去っていく黒瀬さんの背中を見送って、私も家の中へと入っていった。