加藤 伊吹side



戸惑いの中練習が終わり、ジャージから制服へと着替える。



いまだに灰田くんに抱きついてしまったことを鮮明に思い出してしまう。



灰田くん、意外とがっしりしてたな・・・。



私、身長あるから結構重いはずなのに何事もなく支えてくれたし・・・。



部活中だったのにいい匂いした・・・。



そんな考えが頭をよぎってしまい、ブンブンと首を振る。



なんでこんなことばっかり考えちゃうのかな〜!!



そんなことを思いながら更衣室を出て体育館を出ようとする。



その時、後ろから引き止められるように肩に腕を回され、コツンとなにかが肩に触れる。



それと同時に、フワッと制汗剤の匂いが漂ってくる。



突然のことに驚きながら後ろを確認すると、ツンツンとした黒髪が視界に入った。



「えっ、黒瀬さん!?」



「・・・・・・」



後ろから抱きついていたのは黒瀬さんだった。



私が声をかけても反応はせず・・・黙ったまま動こうとはしなかった。



「あ、あの・・・黒瀬さん?動けないんですけど・・・」



「・・・動かないで・・・」



消え入りそうなほど弱々しい声を出した黒瀬さん。



様子のおかしい黒瀬さんに視線を向ける。



「え、あの・・・どうかしたんですか?」



「・・・このままでいさせて・・・お願い・・・」



そう言って私を抱き締める力が強くなる黒瀬さん。



訳も分からないまま黒瀬さんの言う通りにじっとして動かずにいると、ハァ〜とため息が聞こえてくる。



「余裕ねぇな〜・・・俺・・・」



ポツリと呟いた黒瀬さんの言葉に、ハテナを浮かべながら黒瀬さんの方を見る。



「・・・どうかしたんですか?なんか、様子変ですけど・・・」



「・・・陸に抱き着いてたろ?練習中に」



「あっ、あれは・・・!!転びそうになったのを支えてもらっただけですよ・・・!!」



あの時のことを思い出してしまい、カァッと頬が熱を帯びていく。



なんで思い出させるの〜!!せっかく忘れようとしてたのに〜!!



「俺・・・ちょっと・・・嫌だったんだよね。アレ・・・」



「え・・・なんで・・・?」



「・・・ヤキモチ、妬いちゃうから・・・」



え、ヤキモチ・・・?



なんで黒瀬さんが・・・灰田くんにヤキモチを妬く訳・・・?



まさか──



「・・・なーんてね。ちょーっと疲れただけだよ。伊吹ちゃんの匂い、落ち着くから吸わせてもらってただけー」



そう言って私から離れていく黒瀬さんはいつも通りの口調に戻っていた。



匂いを吸ってたって・・・私だって汗とかかいてるかもしれないのに・・・。



「に、匂いって・・・汗かいてて臭いと思いますけど」



「ううん、いい匂いしてたよ。・・・さぁて、帰ろっか!」



「は、はい」



私の横を通り過ぎ、背伸びをしながら歩き出した黒瀬さん。



それを追いかけるようにして私も歩き出した。