準備を終え、練習が始まる。
ボトルを作って体育館に戻ると、まだ休憩に入ってなかったみたい。
皆はランニングをしているところだった。
「ボトル出来ました、置いておきますね」
「おう、サンキュー」
ランニング中の皆に声をかけると、黒瀬さんが声を上げる。
走りながら声出すの大変だろうから別に返事しなくてもいいのに。
そんなことを思いながら、次の練習の準備をする。
準備が終わる頃、ランニングが終わったみたいで皆がゾロゾロと休憩に入る。
ボトルを手に取り、汗を拭きながら飲み始める面々。
そんな中、汗を拭きながら私の方に近寄ってくる黒瀬さん。
「伊吹ちゃん、次の練習の準備──」
「終わってます。これでいいんですよね?」
黒瀬さんの言葉を遮って準備したものを見せた。
この前も同じ流れだったし、これで合ってるはず。
「え、もう終わってるの?しかも完璧だし・・・さすがだな」
「わっ・・・」
そう言って私の頭を撫で始める黒瀬さん。
それを、片目を閉じながら受け入れる。
本当に頭撫でるの好きだよね、黒瀬さん。
撫で続けてる黒瀬さんの方を見ると、愛おしそうなものを見るような優しげな目でこちらを見つめていた。
「っ・・・!?」
黒瀬さんの熱視線に思わず息を飲む。
そんな表情、まるで──
「伊吹さぁん、ちょっと来てもらえませんかー?」
黒瀬さんの表情に驚いている時、体育館の隅にいた灰田くんに呼ばれる。
「あ、うん。なに?」
灰田くんの近くまで寄っていくと、いきなりツルッと床が滑り、前のめりになって転びそうになる。
ヤバ・・・転ぶ!!
そう思っていた時、目の前にいた灰田くんが 私を抱きしめるようにして受け止めてくれる。
目の前に広がるのは灰田くんの胸元・・・しかも、背中には灰田くんの腕が回っている。
その状況が、私の胸をドキドキと高鳴らせ、頬を熱くしていく。
「危なかったですね・・・大丈夫──・・・」
灰田くんが何かを言っているようだったけど、私は今の状況のせいで上手く頭が働かない。
「・・・大丈夫でしたか?」
「う、うん・・・大丈夫・・・」
私から離れ、声をかけてくる灰田くん。
それに、うつむきながら答えた。
やばい・・・心臓が爆発しそう。
「そうそう、さっき言おうとしてた事
ですけど・・・このビブス、縫い目のところが破れちゃってるんですよ」
何事も無かったかのようにビブスを持って話し出す灰田くん。
気にしてるの、私だけ・・・だよね。
落ち着け・・・落ち着け・・・。
「う、うん!あとで繕っておくね」
灰田くんからビブスを受け取り、裁縫箱を取りに行く。
灰田くんから距離を取ってから頬に手を当てる。
ヤバい・・・心臓、壊れそう・・・。
「・・・・・・」