つぐみと話をしていると、いつの間にか授業が始まる。
朝に黒瀬さんに触られてた頬をさすりながら授業を受ける。
“・・・好きな子には、触りたいって思うじゃん?”
冗談だって言っていたけど、あの言葉が頭から離れない。
あの時の愛おしそうなものを見るような目で私のことを見つめていた黒瀬さんの表情が脳裏にこびりついている。
「・・・はぁ・・・」
冗談って言ってたのに、なんであんな風に見つめたりするのかな・・・。
どう考えても冗談じゃ済まされないような態度をどうにかして欲しい。
勘違いされちゃうって思わないのかな。
それとも、勘違いじゃない・・・?
「・・・いや・・・ありえないでしょ・・・」
小さく呟き、その考えを追いやるように頭をブンブンと振る。
ただ、私の反応を見てからかってるだけだ。
それ以上でも、それ以下でもないはず。
そう考えながら授業を受け続け、放課後になった。
「・・・ハァ〜・・・」
授業中に考え事をしながら聞いていたからいつもより疲れが溜まってる気がする。
荷物の整理をしたあと、カバンに突っ伏しながらため息をつく。
なんでこんなに疲れてるんだろう・・・。
「おーい、伊吹ちゃーん」
そんなことを考えていると、黒瀬さんの声が聞こえてくる。
廊下の方を見ると、また黒瀬さんが教室の扉の前で私のことを手招きしていた。
「部活行こーぜ」
「・・・はい」
カバンから顔を上げて立ち上がり、黒瀬さんの元に行く。
なんで毎回迎えに来るんだろう。
私がちゃんと部活行くか見に来てる、とか?
「毎日迎えに来なくてもちゃんと部活行きますよ?」
「そんなつもりで来てないよ。伊吹ちゃんに早く会いたいから来てるだけ」
余裕のある笑みを浮かべながら歩き出す黒瀬さんの隣を歩く。
ほら、また誤解を招くようなことを・・・。
「あんまりそういう勘違いされそうなこと言わない方がいいですよ?私がもし勘違いしたらどーするんですか」
「ん?別に良いよ。勘違いじゃないから」
「え?」
勘違いじゃないって・・・それって──
いや、違う違う!!
この人は私がどう反応するか見たいだけ・・・!!
変に反応しちゃダメだ・・・!!
「まっ、またそうやって私のことからかうんですか?もう、やめてくださいよ」
「別にからかってないよ」
つっかかりながらも返した私の答えに被せるようにして、言葉を紡ぐ黒瀬さん。
その表情は、とても冗談を言っているようには見えなかった。
「・・・今、なんて・・・?」
「だから、からかってないよ。俺は、伊吹ちゃんに早く会いたかったから来たの」
「っ・・・そうですか」
真っ直ぐな目線で私を見つめる黒瀬さんに思わずドキッと心臓が高鳴り、顔を背ける。
冗談って言ったり、本気って言ったり・・・なんなのこの人・・・!
熱くなっていく頬を抑えながら歩いていく。
「・・・可愛い・・・」
ボソッと呟いた黒瀬さんの呟きも、悶々と考えていた私には届かなかった。