灰田くんと会ってから、私は彼に夢中になっていた。
相談した親友が灰田くんと幼なじみだったらしく、秘密裏に手に入れた彼の写真を学生証に挟んで、恋しくなる度にそれを眺めるのが日課になりつつある。
灰田くんに会った図書室にも何度も行ったし、彼の部活も見学しに行った。
話しかけてはいないけど、見ているだけで幸せだった。
「・・・カッコイイ・・・」
放課後、体育館で部活をしている灰田くんのことを体育館のギャラリーで見学しながら呟く。
周りには同じように見学しに来ている人たちがいる。
見学してるのが私だけじゃないという事実が私を何度もここに足を運ばせていた。
休憩に入ったであろう灰田くんをじっと見ていた時、灰田くんの隣に負けず劣らずの身長の人が並び立つ。
ツンツンとした黒髪に切れ長なつり目が特徴的な人が汗を服の裾で拭いながら灰田くんに話しかけている。
灰田くんがかしこまってる・・・先輩かな?
そんなことを考えながら見ていると、私のいる場所の方に視線を向けてくる黒髪の人。
その人につられるように、灰田くんも私の方を向いた。
やばっ、こっち向いた・・・!!
「あっ・・・伊吹さぁぁん!!」
私に気付いたであろう灰田くんは、私の名前を呼んで手を振ってくれる。
待って、そんなの聞いてない・・・!!
ドキドキとしながら控えめに手を振り返す。
顔がカァッと熱くなっていくのがわかった。
気付いてもらえるなんて思ってなかったし、なんなら忘れられてると思ってたのに。
嬉しさと恥ずかしさでどうにかなりそうだった。
「・・・ハァ〜・・・」
手すりに寄りかかりながら口元を両手でふさぎながらため息をつく。
やっぱり、好きだなぁ・・・。
そんなことを思いながら、練習に戻った灰田くんを見つめた。
見てるだけで幸せだと思ってたけど・・・気付いてくれて名前を呼んでくれるなんて・・・。
そんな事されると“もっと”なんて欲が出てしまう。
そんな高望み、しちゃダメだってわかってるのに。
「・・・ハァ〜・・・」
何度目か分からないため息をついて、気持ちを整理する。
だけど、何度整理しようと高望みをしてしまう自分がいた。
「・・・あーぁ・・・」
こんな可愛くない高身長な女に好かれちゃって・・・灰田くんも可哀想かもしれない。