体育館に着いて荷物を下ろしたあと、ジャージに着替える。



着替え終わって更衣室を出ると、黒瀬さんが準備を始めていた。



「準備手伝います」



「おっ、サンキュー。つってももう終わるんだけど・・・コレやってみる?」



そう言ってネットを張ってる手を止める。



「どうやるか分からないんで教えて貰ってもいいですか?」



紐を私に差し出してくるのを手に取った。



やり方を覚えれば今度準備する時に手伝えるし。



そう思って黒瀬さんに教えを乞う。



「体重かけながら紐をポールにくくりつけてみて」



黒瀬さんに言われる通りに体重をかけながら紐を引っ張る。



「こんな感じですか?」



「うーん・・・もう少し引っ張ってもいいかも」



そう言って、私の体を包み込むように後ろから腕を回す黒瀬さん。



フワリと香ってくる柔軟剤の匂いと黒瀬さんの体温にドキッと胸が高鳴る。



「・・・こんくらい、かな。あとは引っ張りながらポールにつつりつけるだけだよ」



「っ・・・」



かなり近くで聞こえる黒瀬さんの声が、距離の近さを際立たせる。



この人、ホントに距離感バグってる・・・!



そんなことを思いながら、ポールに紐をくくりつけた。



「うん、上出来。これなら次やる時も頼めるな」



そう言って頭を撫でながら微笑む黒瀬さん。



その表情を見て、さらに胸がドキドキと高鳴りだし、頬が熱くなっていく。



ほんとに・・・なんなの。



うつむきながら口元を隠すように手を当てる。



「・・・伊吹ちゃん、どーしたんですかぁ?」



ニヤニヤとしながら私の顔を下からのぞき込んでくる黒瀬さんと目が合う。



思わず逸らしたけどニヤニヤとしながら私のことを見てくる。



「顔、赤いですけど〜?」



「き、気のせいです!ほら!準備出来たんだから練習始めてください!!」



グイグイと近付いてくる黒瀬さんを押し返しながら練習するように催促する。



ホントに距離近過ぎ・・・調子狂うなぁ・・・。



「残念でした〜、まだ陸が来てませーん」



「だからってふざけないでくださいよ!」



くっついてこようとする黒瀬さんを押し返しながら、黒瀬さんのことを見る。



距離感考えて欲しい。



「──ふざけてなんかないよ」



「・・・え」



さっきまでのニヤニヤとした表情ではなく、真剣な表情で私の頬に手を添えた黒瀬さんに思わず目が点になる。



ふざけてないって──どういう・・・。



「お疲れ様でーす、遅くなりましたー!」



そんなことを考えていると勢いよく体育館の扉を開き、灰田くんが顔を出す。



急な出来事にビクッと体が震えた。



びっくりした・・・。



「・・・おーし、全員揃ったなー。練習始めんぞー」



黒瀬さんは、ゆっくりと私の頬を撫でながら手を離し、部員に対して声をかけて練習を始める。



真剣な表情を見せた黒瀬さんのことを目で追いながら私も仕事を始めた。