授業を受けること数時間。



ようやく放課後になり、授業から解放される。



「ん〜・・・!」



凝り固まった体を伸ばすように背伸びをする。



今日は昨日みたいに日直を押し付けられたりしてないからまだマシかな。



そんなことを思いながら机の上に広がっている筆記用具を片付け、バックの中にしまう。



「おーい、伊吹ちゃん♪」



バックにしまってチャックを閉めている時、廊下から黒瀬さんの声が聞こえる。



廊下に視線を向けると、そこには黒瀬さんが荷物を持って教室の扉に肘をついて中をのぞいていた。



「部活、行こーぜ」



「はい、今行きます」



荷物を持って黒瀬さんの元へと行く。



「今日は日直じゃないんだね」



黒瀬さんの隣に行くと、体育館に向かって歩き出しながら声をかけられる。



「まぁ・・・。昨日も本当なら違かったんですけどね」



アハハ、と苦笑しながら昨日のことを思い出す。



良いよと言ってもないのに日直の仕事を押し付けられ・・・あれよあれよという間にマネージャーになれって言われたっけ。



「なに、押し付けられたりでもした?」



「はい、黒瀬さんにぶつかった時に呼ばれた女子に」



「あぁ、あの時ね。大変だったね」



そう言って、大きな手で頭を撫でてくる黒瀬さん。



頭を撫でられる、なんて滅多にないから少し気恥しい。



「な、なんで頭撫でるんですか」



「んー・・・(ねぎら)いを兼ねて撫でてる。この前触った時も思ったけど、伊吹ちゃんの髪サラサラだから触り心地良いんだよね」



頭を撫でるのをやめて、髪の毛を触り始める黒瀬さん。



まとまりにくいから所々はねてたりするんだけど・・・サラサラなのか?



「ねぇ伊吹ちゃん、髪切る予定とかある?」



「え、いや・・・特には」



特段伸ばしてるとかはないけど、切る予定もない。



ショートカットはあんまり似合わないし。



「・・・そう」



嬉しそうに笑いながらクルクルと指先で髪の毛をいじる黒瀬さん。



「それにいい匂いするし・・・コロンかなんか付けてる?」




「いや、特には──って、髪の毛の匂い嗅がないでください!!」



私が答えてる中、髪をすくい上げて自分の鼻に近付ける黒瀬さん。



思わず髪の毛を引っ張って彼の手から髪を解放させる。



「すごくいい匂いだからさ。シャンプーの匂いかな」



「さぁ・・・自分じゃよくわかんないです」



自分の髪をすくって匂いを嗅いでみるけど、黒瀬さんの気のせいなんじゃないかって思うほどなんの匂いもしない。



首を傾げながら、体育館まで歩いていった。