体育館を出て帰路につくけど、その間も隣には黒瀬さんがいた。
送るって言ったけど、どこまで送るつもりなんだろう・・・。
荷物を肩にかけ直しながら、黒瀬さんの方をチラ見する。
「ねぇ、伊吹ちゃん」
「なんですか?」
「あー・・・連絡先、教えてくんね?」
頭を掻きながら私の方を見てくる黒瀬さん。
なんで連絡先?
「別に構いませんよ」
ポケットの中からスマホを出してLINEを開く。
そして、QRコードの画面を出して黒瀬さんに差し出した。
「!・・・サンキュー」
スマホをかざしてQRコードを読み込んでポチポチと操作をする。
すると、私のスマホの通知に黒瀬さんの名前でスタンプが送られてくる。
「これで合ってますか?」
「うん、あってる」
スマホの画面を見せて黒瀬さんに確認をしてから追加ボタンを押す。
スタンプを送信して、スマホをポケットの中にしまった。
「伊吹ちゃんの連絡先、陸は知ってんの?」
「いえ。知りません」
灰田くんに話しかけるのも難しいのに、連絡先を教えて欲しい、なんて言えるわけが無い。
私がそんな事を言えたら大賞ものだ。
「!・・・ふぅん」
驚いたようにしたあと、口元を手で覆った黒瀬さん。
どうしたんだろう。
そんなことを思いながら歩いていると、私の家の近くまで来ていた。
学校から家まで近いけど、なんかいつもより早く着いたような気がする。
「黒瀬さん、私の家ここなので・・・」
家の前で立ち止まり、黒瀬さんに声をかける。
すると、黒瀬さんも足を止めて私の家を見上げた。
「え?近いね」
「まぁ・・・歩いて15分圏内なんで」
「いや、俺ん家もこの近くなんだよ。ほら、あそこのアパート」
そう言って、2軒先のアパートを指差す黒瀬さん。
まさかこんなに近くだとは思ってなくて、驚きのあまり言葉を失う。
「俺ん家の方向に進んでくから、まさかとは思ったけど・・・まさかだったな」
「私も驚きました。近所だったんですね」
想定外な事実に動揺したけど、なんとか返答をする。
だけど私を送るせいで黒瀬さんに遠回りさせてしまう、みたいな事がなくて良かった。
「家も近いし、これから一緒に学校行こうか。最近不審者も多いみたいだし」
近くの電柱に貼られてある“不審者注意”の張り紙を指さしながら余裕の笑みを浮かべる。
前に後をつけられたことがあるし、1人だと危ないって口酸っぱく家族から言われてるけど・・・。
うーん、とうなっていると、ふふっと笑う黒瀬さん。
「まぁ、考えてみてよ。んじゃ、また明日な」
「はい、送って貰ってありがとうございました、また明日」
手を振りながら歩き出した黒瀬さんを見送りながら、小さく手を振り返した。