「・・・こーなると思って身構えてはいたけど、初日でなるとは思ってなかったわ。大丈夫?」
肩を抱いたまま目線をこちらに向ける黒瀬さん。
体勢もだけど、とても気になることがあった。
「大丈夫、ですけど・・・さっきの、なんですか?」
「さっきのって?」
「私が・・・その、彼女・・・とか・・・」
語尾が弱くなりながらも、さっきの発言について聞く。
なんのつもりでそんなこと言ったんだろう。
「んー?あれは願望を言っただけ。なんかまずかった?」
「まずかったって言うか・・・えぇ・・・?」
願望を言ったって・・・つまり、そういう関係になりたいってこと・・・!?
待って待って、展開が早すぎて追いつかない。
「・・・なんてね。アレはその場を切り抜けるための嘘。まぁ、本当にそういう関係になってもいいんだけどね?」
「なっ・・・なりません!」
カァッと頬が熱くなるのが分かり、そっぽを向いて黒瀬さんの視線から逃れる。
嘘を真に受けちゃって真剣に考えちゃった自分が恥ずかしい。
「・・・伊吹ちゃーん、顔真っ赤だよ?」
「・・・離れてください・・・!」
肩を抱かれたままの体勢で顔を近づけて来る黒瀬さんの胸板を押す。
だけど、黒瀬さんが離れることは無かった。
「あらら〜・・・可愛い顔しちゃって」
「!か、可愛くなんかないです・・・!」
私と可愛いという言葉は無縁の言葉だ。
そんなこと、中学の時から知ってる。
可愛くなんかない、私がいちばんわかってることなのに──
「ううん、そんなことない。可愛い」
「っ・・・!」
低くささやくように言われ、ドキッと胸が高鳴り息を飲む。
うつむいてなんとか冷静さを取り戻そうとするけど、あまりの近さに固まることしか出来なかった。
ドキドキと高鳴り続ける心臓がやけにうるさく聞こえる。
「そういう反応も可愛いね」
「っ・・・あの・・・!」
熱を帯びていく頬を隠すように手で隠したあと、どう反応していいか分からなくなり黒瀬さんのことを見る。
冗談だとしても言われ慣れてないから照れるものは照れる。
私と目が合った黒瀬さんは少しだけ目を見開いた。
「・・・なんてね。早く帰ろっか。送ってくよ」
そう言って私の肩から腕を離し、歩いていく黒瀬さん。
やば・・・まだドキドキしてる。
「は・・・はい・・・」
荷物にかけていた手をキュッと握りしめ、黒瀬さんの後を追いかけた。