「加賀美くんの方が話しやすかった?」
「違う。それじゃなくて……」
「俺は、真っ先に相談したいと思う相手でありたかった」


 その言葉は、胸の奥に深く突き刺さった。

 落胆したようなセリフ。

 立ち上がる彼が寝室に戻っていくのをただ見ていることしかできなかった。

 初めてのクリスマスイブは、私たちから消えていった。



 翌朝、仕事に行く準備をしながら何度もため息が出た。同じベッドで寝ているというのに、背中合わせのぽっかりとあいた空間がひんやりと冷たく感じた。


「静菜」


 玄関で靴を履いていたら、後ろからいつもの声で呼ばれた。


「昨日はごめん。台無しにした」
「ううん、私が悪いの」


 視線を少し落としたまま、お互いぎこちなく謝った。


「行っておいで、ニューヨーク」


 少し間をおいて私の手を握る彼が言った。

 顔を上げると、優しく笑う高科さんの顔がある。


「昨日、ちゃんと言ってあげられなかったから。静菜にはやりたいことをやってほしいし、俺のせいで諦めてなんかほしくない」
「諦めたわけじゃ……」
「でも、俺と出会ってなかったら迷わなかったでしょ」


 返す言葉は見つからなかった。

 優しく抱き寄せてくれる高科さんは、安心させるように何度も大丈夫だと口にした。

 彼が言うと本当に大丈夫な気がして、強くなれる気がした。

 その日の夜、私は一番お気に入りの黒のワンピースドレスに着替えた。