未奈子と別れ、ふたりで乗ったエレベーターは重い空気に包まれていた。家の前に着き、鍵を開ける音がいつもより強く音を立てた気がした。
「ごめん、まだ朝食の準備とかしてなくて」
「静菜」
ただ名前を呼ばれただけなのに、そこに怒りがこもっているのがひしひしと伝わってきた。キッチンに入りかけて振り返ると、座ってと促されているかのように感じた。
向かい合う私たちの間に沈黙が続く。
この半年、一度も喧嘩することなく過ごしてきたから、この沈黙が怖くてたまらなかった。
私は今まで打ち明けられなかったニューヨーク行きの話を、すべて話した。彼はただなにも言わず私の話に相槌を打ちながら、静かに聞いてくれた。
「なんで相談してくれなかったの」
話し終えたとき、彼は第一声にそう言った。
自分でもどう伝えるべきか悩んだけれど、素直に言葉にしようと思った。
「ずっと相談したかったけど、できなかった」
「どうして?」
「高科さんは、私のことを一番に考えてくれる人だから。きっと、行っておいでって言うでしょ」
声がどうしようもなく震えた。
「それじゃいけないの?」
無音の空間に落ちていく言葉。
声色のひとつひとつがダイレクトに伝わり、不安がどんどんつのっていった。