きっと去年の今頃なら、私は喜んで承諾していただろう。ロンドンで生活を送りながら、このままずっとここにいてもいいと思っていたくらいだったから。

 だけど、私は大切にしたい人と出会ってしまった。


「高科さんはなんて?」


 未奈子の問いかけにグッと唇をかむ。


「まだ言ってない」
「え、だってそれ、いつまでに答え出すの?」
「来週、月曜日にはって」


 あとちょうど一週間。本当に時間がなかった。


「俺は行くべきだと思う」


 すると、加賀美くんが真剣な顔で言った。


「朝倉が海外で働きたいって言ってたの、俺らはよく知ってるし。正直、そう簡単に回ってくるチャンスじゃないと思う」


 正論をぶつけられ、返す言葉もない。

 もし今回断ったら、きっと一生後悔が残るのは自分の中でも気づいていた。