来たる卒業の日、校庭は式典を終えた卒業生たちで溢れかえっていた。そんな中、生徒会室から見える二階の渡り廊下には女子生徒に囲まれる高科先輩がいた。


『さすが伊織先輩モテてますね』
『第二ボタンどころか、身ぐるみ全部はがされそうな勢いだな』


 窓から身を乗り出す先輩たちがニヤニヤと面白がって話している。その隣で一緒になって見下ろしながら、窓枠へ添えた手に力がこもった。

 今どき、第二ボタンなんて古いジンクスだ。

 そう強がってみたけれど、ただ彼の特別になれる人が羨ましいだけだった。


『今日はこないのかな』


 誰もいなくなった生徒会室。いつも高科先輩がいた席でぼんやりと時計の針を見つめる。約束したわけでもないのに、なんとなく今日も来てくれるんじゃないかと勝手な期待をしていた。

 帰ろう。そう諦めて立ち上がったとき、がらりと勢いよく扉が開いた。膝に手をつき息を切らした先輩が、私を見てほっと安心した顔を見せる。


『よかった。まだいた』


 さっきまでいた生徒会の先輩たちが帰っていくのを見て、焦って私を探しに来てくれた。そう明かされて嬉しくないはずはなく、口元が緩んだ。

 だけど、彼が机にバサッと置いた上着のボタンが袖までごっそりとなくなっているのを見て、咄嗟に目を逸らしてしまった。