『おかけになった電話は電波が届かない場所にあるか、電源が入っていないため――』


 聞き終わる前にスマホを耳から遠ざけた。

 なにをするでもなく、気を紛らわせるように深夜のバラエティ番組をつけた。楽しそうな笑い声が広がる。でも高科さんのことばかり考えてしまう私は、右から左に抜けていき、なにも頭に入ってこない。

 楽しそうな映像をぼんやりと見続け、何度も時間を確認した。

 深夜二時。ガチャッと玄関の鍵が開いた音が聞こえた。

 慌てて立ち上がり廊下から顔をのぞかせると、ずっと待ち望んでいた高科さんの姿があった。


「ごめん、遅くなって――」


 構わず、私は彼に飛びついた。背中に腕を回し、ここにいると確かめるようにぎゅっと力をこめる。


「よかった……」
「ごめんね、連絡できなくて」
「いいんです、無事に帰ってきてくれたから」


 すると、包み込むように腕を回され、彼の手がポンポンと撫でるように頭を優しく触った。

 ゆったりと穏やかな時間に浸る。

 彼の胸元に顔を埋めていたら、急にハッと我にかえった。


「すみません、疲れてますよね。一応お風呂入れておいたんですけど」


 後ずさるように離れた私は乱れた髪を耳にかける。

 そのとき、ぐいっと勢いよく引き寄せられた。