不器用な優しさがそこにあった。

 今まで何度この優しさに助けられたか分からない。


「ありがとう」


 私は、心から思った。


「なんだよ、別に大したこと言ってないだろ」
「うん。同期として、これからも残業手伝ってね」


 気恥ずかしそうに言う加賀美くんに、私もふざけて返す。呆れたように笑う彼は、ひらひらと手を挙げてオフィスへ戻っていった。



 買い物を終えて、彼のマンションに着いたのは十九時を回った頃だった。

 外はひどい大雨で、傘をさしていたのに服が随分と濡れた。看病のお礼にと買い込んできた夕食の食材も、ビニール袋がびしょ濡れになった。

 二十五階建てマンションの二十四階に位置する角部屋。ロビーを通るのも、エレベーターに乗って彼の部屋へ向かうのも、なんだか無性にドキドキした。ちゃんと合鍵を持っているのに、いけないことをしている気分になった。

 扉を開けると、真っ暗でしんとした空間が広がっている。

 本当に来てしまった。

 部屋に入って、早速テレビをつけた。懸念していたことが本当になり、台風は速度を落としまさにこれから関東上空を通過しようとしている。

 ニュースでは相次いで便の欠航が発表され、多くの便が着陸不能になっていることを告げていた。

 帰宅時刻は二十時半ごろと聞いている。

 つまりは、この台風の渦中にいる可能性が大いにあった。