『お願い。一緒に生徒会やってください』


 そんな私が生徒会に誘われたのは、募集の締め切りが過ぎた頃だった。

 教室のど真ん中で、色の違う上履きを履いた先輩に頭を下げて頼まれた。一学年上の現生徒会役員を務めている彼は、たまたま同じ中学だった人。


『私、無理です』
『大丈夫だよ、俺もいるし。静菜ちゃんのこと推薦させてください』


 彼は、中学のときに仲が良かった友達と数カ月だけ付き合っていて、たまに話す機会があった。ふたりが別れてからは一切関わりなんてなくなったのに、偶然同じ高校に入ったら、こんな形で繋がることになるなんて思いもしなかった。

 一年生からの立候補者が集まらず、他に頼める知り合いがいないのだと切羽詰まって泣きつかれた。結局、昼休みのたびに頼みにくる先輩を突き放しきれず、折れたのは私の方だった。

 参加した一回目の定例会議。

 私は扉を開けた瞬間、思わず固まった。


『静菜ちゃんだよね。引き受けてくれてありがとう』


 そこには、代替わりしていないはずの高科先輩がいた。

 私を生徒会に入れた先輩につられてか、初対面のときから〝静菜ちゃん〟と呼んでくれた。

 私にとって、ふたつ年上というだけで大人びて見えたのに、他の上級生ともどこか違う落ち着いた空気感を漂わせる彼のことがどんどん好きになっていった。

 先輩は引退後もよく遊びに来てくれた。昼休みにはわざわざ生徒会室の机で寝ていることもあり、私はよく適当な用事を作って会いに行っていた。

 そのうち装った偶然が日常へと変わり、いつしかふたりの時間が当たり前になっていくのを感じた。

 全校生徒から憧れを向けられる先輩を、唯一その時間だけは独り占めできた。