「リオさん?」
すると少し考えた後、川瀬さんが思い出したようにハッと眉を上げた。
「ああ、莉央ちゃん。あの幼馴染みの子か」
「やっぱり知ってるんですね」
「ちゃんと話したことはないんだけど、同じ高校だったからね。俺らの一個下だし、朝倉さんも知ってるんじゃないかな」
知らなかった。彼女もあの高校にいたんだ。
「あの子がどうかしたの?」
「付き合ってたんですよね」
私は生徒会室で会う高科先輩しか知らない。
普段、どんな高校生活を送っていたのかも正直分からない。
だから、莉央さんから卒業式の前に両想いになったと聞いて、頭が真っ白になった。
「そうらしいね。俺もよく知らないんだけどさ」
川瀬さんは曖昧にそう答えた。
まさか一番仲のいい友達にもなにも話していないなんて。秘密主義もここまでくると正直驚かされる。
でも思い返してみれば、生徒会室で会っていたころ、高科さんの友達や幼馴染みの話を一度でも聞いたことがあっただろうか。川瀬さんのことも莉央さんのことも私は今になって知った。
「ずっと聞いてみたいことがあったんだけど、いい?」
ひとりで考え込んでいたら、川瀬さんが改まったように言った。
「卒業式の日、あいつに会った?」
「はい。生徒会室で……」
「それならもらったんじゃない? 第二ボタン」
驚く私の顔を見て「やっぱり」と小さく口にする。
誰にも言ったことはない私だけの思い出だったから、まさか川瀬さんが知っているとは思わなかった。
「どうしてそれを」
「いや、なんとなくそんな気がしてね」
そう言って医療器具を鞄にしまいながら、彼は懐かしそうに顔をほころばせた。