「あの、川瀬さんはどうして私のこと。多分会ったことは……ないですよね」
私は、探るように聞いた。
「ないけど、うちの高校で君のこと知らないやつはいないと思うよ」
「いや、そんなことは」
「入学式のときから有名人よ。美人な新入生が入ってきたって、一気に噂が広がったから」
耳を疑った。
だれかと勘違いしているのではなかろうかと、別人の話でもされているみたいだ。それほどしっくりこなかった。
「でも朝倉さん、委員も部活も入らなかったでしょ。男連中はみんな話すチャンスうかがってたから、こぞって落ち込んでたよ」
彼は、懐かしそうに笑った。
「だから生徒会に入った時は驚いた」
「知り合いの先輩にどうしてもって頼まれたので」
あの頃の私は、やりたいことも好きなことも見つからなかった。どこかに所属するタイミングを失って、私の高校生活はただただ授業をこなすだけの平凡な毎日だった。でも先輩から生徒会に誘われて、高科先輩と出会って、あの日から私のすべてが変わったんだ。
「朝倉さんが入ってからかな、あいつがしょっちゅう生徒会室へ行くようになったの」
もう十年も前の話に浸っていると、「え?」と声が出た。
「用もないのにわざわざ昼休みにまで顔出して、本当わかりやすいやつだよ」
心が熱くなった。
その言葉を真に受けてもいいものだろうかと思いつつ、嬉しくてたまらなくなる。しかし、すぐに彼女の顔がチラついた。
「でも、莉央さんのことを」
言葉にすると、余計に苦しくなった。
卒業前に付き合うことになったんだとしたら、きっと私なんてただの後輩でしかない。それなら、彼が生徒会室にいた理由に私は入っていないだろう。