「終わったあー」


 椅子の背に寄りかかり大きく腕をいっぱいに伸ばす。


「良かった、まだ二時だ」


 時計を見て、思ったよりも早く終わったと安堵した。


「まだって……、忙しすぎて感覚バグってんだろ」
「違う違う、絶対朝日見ることになると思ってたから。本当手伝ってくれてありがと。持つべきものは同期だね」


 自動販売機の前に立ち、「なにがいい?」と振り返る。しかし返答は返ってこず、彼は不機嫌そうに頬杖をついた。


「お前じゃなかったら手伝うかよ」


 なにが気に障ったのか、パソコンを持ってぶつくさと文句を垂れながら横を通りすがる。自分のデスクを片付けて、ちらっとこちらを見た。


「なんか言えよ」


 そしてまた、不機嫌そうに続けた。

 なんか、と言われても加賀美くんが優しい人なのは知っている。改めて恩着せがましく再確認させなくたっていいのに。

 そう思いながら、「同期のよしみってことでしょ?」と、さらっと返した。

 口が悪くていつも不機嫌そうにしているから、見た目のイメージが先行して、周りには伝わりづらいけれど。実は人一倍、人の気持ちに敏感なんだ。


「意外と優しいもんねえ、加賀美くんは」


 少しからかうように言いながら、自動販売機に小銭を投入する。なににしようかと人差し指を立てて選んでいたら、後ろからドンと衝撃が伝わってきた。