こんな話がしたかったわけじゃないのに。

 車内に流れる洋楽を聞きながら、私たちはぎこちない会話を交わしながらお店に到着した。


 食事はどれもとても美味しかった。

 さっきまでのぎこちない会話が嘘のように、お店ではお互いの話をたくさんした。ふたりともエビが大好物だと判明したときは盛り上がり、高科さんが美味しいエビの専門店を知っていると、次の約束をさらりと取り付けてくれた。

 さっきまで莉央さんに対して抱いていた嫉妬心が、彼と一緒の時間を過ごすうちすっかり消えているのを感じた。

 やっぱり好きだ。穏やかに話す波長も、醸し出す落ち着いた空気感も、どれをとっても惹かれてしまう。自分の気持ちを再確認していた。


「ご馳走様でした」


 帰り際、高科さんは車で家の前まで送り届けてくれた。

 シートベルトを外し、トートバックを手に降りようとしたら、スッと伸びてきた彼の手が私の腕に触れた。戸惑いながら彼の方を向くと、ゆっくり顔が近づいてきた。


「いい?」


 唇が触れる寸前。問いかけてくる甘いウィスパーボイスに心臓の鼓動が激しく動いた。

 受け入れるように小さく頷いた瞬間、私たちはゆっくりと重なる。

 触れるだけのキスだった。でも、じっと目を合わせる私たちはお互いを確かめ合うように、何度も何度も求めあった。

 ちかちかと点滅するハザードランプがやけに大きく聞こえた気がした。